Smiley face
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クイズ作家のふくらPさん=2024年8月8日、東京都中央区の朝日新聞東京本社、上田幸一撮影
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 YouTubeのチャンネル登録者数が230万人を超えるウェブメディア「QuizKnock」でプロデューサーを務めるふくらPさん(31)は、小学校の時に不登校になった経験があります。背景には、幼い頃からの「恥ずかしがり」の性格がありました。不登校を克服した後は、その性格すらも克服したといいます。

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 小学校5年の春から秋まで、半年くらい不登校でした。きっかけは、風邪で3日ほど休んだこと。「あいつ3日も休んだぞ」と言われると思うと恥ずかしさや罪悪感があり、体調が戻っても登校できなくなりました。

妄想の中の「仮想敵」 両親の尽力、同級生の優しさで…

 昔から恥ずかしがり屋でした。みんなの前で声を出すのが苦手で、幼稚園では自己紹介もできなかった。小学校に入っても、たとえば「名前を呼ばれた人は起立してください」と言われても立てないくらいでした。

 風邪で数日休んだ、なんて、大人から見ればたいしたことない理由です。自分でも、当時なぜそう考えたのかよくわかりません。親にも「そんなことで休んでいるのか」と思われたくなかったので、しっかり説明していなかったと思います。

 振り返れば、妄想の中で勝手に「仮想敵」を作っちゃっていたんだと思います。同級生から「休めていいな」「ずるい」と言われるんじゃないかという恐怖が、自分の中でどんどん大きくなっていった。実際は全くそんなことはないんですけどね。家族に外出しようと誘われても、友達に見つかるのが怖くてこそこそしていた記憶があります。

 学校に行っていない間は、家でテレビの情報番組やバラエティーをよく見ていました。あとはクイズの本を読んだり、好きだった算数の勉強をしたり。あまりよく覚えていなくて、自分の中では「空白の時期」という感じです。

 両親には「明日は学校に行く」と約束するけど、朝になると色々なことを考えてしまい「やっぱり行けない」ということを繰り返しました。

 その間、両親は学校とたくさん連絡を取っていて、僕が学校に行きたくなった時に行きやすいように準備を進めてくれていました。1人が不安なら親と一緒に保健室登校できるようにしてほしいとか、みんなと同じ時間に登校するのが恥ずかしいなら授業中の登校を認めてほしいとか、いろんなお願いを学校にしていたんです。

 そうしてどんどんハードルが下がっていったある日、僕から何度目かの「明日は行く」が出ました。これは今までのものとは違っていて、本心から行きたいと思っていました。行けない理由はぐっとそぎ落とされ、あとは勇気を出すだけという環境がそろっていたのです。

 母はそんな僕の思いを見逃しませんでした。翌日、僕が勇気を出せないでいると、母はいつもと違った形相になり、半ば強引に学校に連れて行かれそうになりました。普段は休むことに理解のある母です。これはよっぽどのことだと感じました。そこで、僕は決意しました。「行くなら自分の意思で行く」。勇気を出して、自分の思いを行動に移しました。

 まずは保健室登校だったんですが、保健室には雑学とかマジックが好きな6年生が2人いました。僕はクイズ好きだったので趣味の話で盛り上がり、居心地がよかったですね。

 給食を保健室に運んでくれていた同級生が優しかったのも大きかったです。そのうち「教室に来てみたら?」と誘ってくれて、休み時間に行ってみると、同級生たちは「ふくらじゃん!」と迎えてくれました。「全然嫌われていないじゃん」と思え、「仮想敵」がなくなった瞬間でした。

「世界へのドアをノックする」

 恥ずかしがりの性格は、中高にかけて「客観視」を覚えることで克服しました。

 自分はどういう人になりたいかと考え続けた末に思ったんですけど、「こんなことをするといやがられるかな」と心配してしまうことって、自分が考えているより、他人はいやだと思わないんじゃないでしょうか。

 たとえば、初対面の人に話しかける、連絡先を交換する、ご飯に誘う、何年も会っていない友人に連絡する、といったことって、大人でも苦手な人は少なくないと思います。でも自分がされたらどうかと考えると、僕は「別にいやじゃないな」と思う。そう思うと、恥ずかしさがなくなりました。今では友人から「よくそんな物おじせずに誘えるよね」と感心されるくらいです。

 深刻な原因で不登校になり、その原因が解消されないと学校に行けないという人は多いでしょう。でも僕のように、見方や考え方を変えたら楽になったり、意外と身近なところに解決策があったりする人も少なくないと思います。

 一人で悩むより、ぜひいろんな人に相談してみてください。身近な人がダメでもあきらめず、自治体や支援団体が開いている相談窓口や、ネット上に悩みを打ち明けてもいい。僕も昔は「学校には一生行けないな」と思っていましたが、解決不可能なことはない。何かしらの突破口はあるはずです。

 学校に行きたくない子に伝えたいのは、「世界はすごくおもしろい」ということ。僕はクイズを通して様々な知識を得たけど、世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあると痛感します。普段テレビで見ているスポーツも、生で見ると全然違うし、おいしそうなものがあると知れば、食べに行きたくなる。学校に行かなかったとしても、外の世界との接点、夢を持ち続けてほしいです。

 クイズノックという言葉には、「世界へのドアをノックする」という意味が込められています。クイズを通して世界に興味を持ち、一歩踏み出すきっかけになる。そんな発信をこれからも続けていきたいと思っています。(聞き手・狩野浩平)

 1993年生まれ。香川県出身。東京工業大在学中の2016年12月に、東大発の知識集団・QuizKnockに加入。翌年、YouTubeチャンネルの開設を提案し、プロデューサーを務める。今年7月にアイドルグループ乃木坂46の元メンバー・高山一実さんとの結婚を発表し、話題になった。

主な相談先

【#いのちSOS】0120・061・338 24時間受付

【いのちの電話】0120・783・556 毎日16~21時

【チャイルドライン】0120・99・7777 毎日16~21時 対象は18歳まで

【24時間子供SOSダイヤル】0120・0・78310 毎日24時間

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